クローバーコミュニティ マンション管理士 朝日新聞
2020年(令和2年)4月18日(土)朝日新聞の朝刊「真山仁のPerspectives 視線12:タワーマンション」において、当社代表でマンション管理士 深山のコメントが掲載されました。
作家の真山仁さんが移り変わる「いま」を多様な視点(Perspectives)から考えた連載コラムです。

※朝日新聞WEB版(有料記事)はこちらです。(外部リンク)

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真山仁のPerspectives:視線 TOKYO 2020 [タワーマンション]

ニュータウンと同じ「スラム化」の足音 

新型コロナウイルスの影響で、日本中が、自宅に“釘付け”されている。家族全員がずっと一緒に過ごしているという家庭も少なくないだろう。東京などの大都市圏では、マンションに居を構えている人が多い。不動産価値が高いこともあり、その住空間は決して広くはない。四六時中顔をつき合わせていると、窮屈だったり、居場所がなかったり、息苦しさを感じてしまう人も多いのではないだろうか。

そんな今、唯一贅沢だと思えるのは、時間がたっぷりあることだ。自分たちの住まいの将来について改めて考える機会にしてはどうだろうか。互いに見知らぬ多くの家族が一つの建物の中で生活する集合住宅の歴史はさほど古くはない。

きっかけとなったのが、「ニュータウン」だった。前回の東京五輪が開催された1964(昭和39)年頃から東京や大阪、名古屋など多くのマンションが集積した「ニュータウン」が造成された。そして、「ニューファミリー」と呼ばれる核家族を基準とした新しいライフスタイルが広まった。

国土交通省は、次の3条件を満たした地域をニュータウンと呼んでいる。

①55(昭和30)年度以降に着手された事業
②計画戸数1千戸以上または計画人口3千人以上の増加を計画した事業で、地区面積16ヘクタール以上のもの
③郊外での開発事業(事業開始時に人口集中地区外であった事業)

ニュータウンのために新たに鉄道が敷かれ、学校やショッピングセンターも新設した。何もかもが新しい“1億総中流時代の象徴”のような街だった。ニュータウンの総数は全国約2千カ所にのぼる。建設のピークは70年代。50年近くを経たいま、高齢化がスラム化が喫緊の課題となっている。

この半世紀で、子どもたちは巣立っていき、老夫婦が取り残された。やがて配偶者が亡くなると、孤独な高齢者が残される。あるいは、住む人がいなくなり、空き家が増加していく。

空き家問題の専門家で、「限界マンション」の著作もある住宅・土地アナリストの米山秀隆さんは、こうした「スラム化」の広がりを懸念する。「多くのニュータウンの建物は建て替え不可能のケースが多い」

理想的な建て替えは階を元ある建物の倍に増やして新たな居住者を募る。その利益で旧来の住人は大きな負担もなく、新しく手入れされた部屋で暮らすというものだ。しかし、そのようなケースはなかなか実現しない。第1世代が建て替えの主体になるのは、年齢的に難しいため、次の世代か、次々世代が計画の中心にならなければならないのだが、世代交代が進んでいない。人が去ったきり、新たな流入がないのだ。

「ニュータウンの間取りは、現代のニーズからすると狭い。アクセスが悪い場所も多く、共働きが当たり前の世代には好まれない。揚げ句が修繕積立金不足で十分なメンテナンスが行われず、建物が劣化している。住人が減り、廃れていく」。もはや「再起不能」-そのようなニュータウンが年々増えているという。「いまニュータウンで起きている問題は、タワーマンションがいずれ辿る道かもしれない」と米山さんは言う。思いがけない重大発言であった。

タワマン、すなわちタワーマンションは一般的に20階建て以上の鉄筋コンクリートの集合住宅を指す。現在のような都心の交通至便の場所に林立し始めたのは、21世紀に入ってから。2002年の改正建築基準法で容積率が緩和されて、その建設ラッシュを後押しした。全国で約1400棟36万戸が建設され、今なお、建設計画は進行中だ。 

東京都内は特に集中しており全体の3割を超え、ある種のステータスとして 、高収入の共働き夫婦(パワーカップル)にも高い人気を誇る。「一棟で千人以上の住人を擁するタワマンも珍しくない。にもかかわらずマンションの管理組合が機能していないケースがあり、将来、ニュータウンのような『スラム化』すらおきかねない」と米山さん。

タワマンのスラム化と聞いて、一つ、思い出したことがある。以前、取材したタワマン開発に携わるゼネコンの社員の言葉だ。彼は「タワマンには住みたくない」と断言していた。「日本では前代未聞の建築で、何が起きるか想定不能。災害時も心配だし、しっかりと修繕積立金を集めないと、資産価値も暴落する」からというのがその理由だった。そんなものを販売するな!と言いたいところだが、買いたい人がいるからゼネコンは先を競って都心部の交通至便の場所にタワマンを建て続ける。


狭い敷地に1千人超 不自然

多くのマンションの管理組合をサポートする管理士としてアドバイスを提供する深山州さんは「タワマンを選ぶ動機は千差万別です。大勢の住人が共通認識を持ち、共生していくのは難しい」と問題の根本を指摘する。

将来を展望した時に見えてくる最大のリスクは、修繕積立金の不足だという。タワマンの場合、1棟で積立金の総額は10億以上にも達する。タワマンの大規模修繕では、低層マンション以上に費用がかかる。絶対に補修が必要なのは、シーリング材というゴム状の接着素材だ。耐久年数は約15年で、劣化するとそこから雨水が室内に侵入し、雨漏りの原因になる。超高層のため、足場が組めないことも多く、手間と技術が必要だ。築30年前後に行う2回目の大規模修繕では、エレベーターや給排水システムの交換も必要になり、費用がかさむ。

住人が修繕費を一括で支払うと負担が大きいため、積立てるものの、負担を嫌う人は一定数いるという。都心部のタワマンは資産価値が高いので、投資目的での購入者が約3割を占めている。彼らの多くは初回の修繕の前に売却する場合が多く、積立金の値上げに反対することも多いのだという。「タワマンはステータスなんだから、将来の修繕積立金にカネを集めるのではなく、高級感のあるコンシェルジュや管理サービスの充実を求める住人もいます」と深山さん。

こうした事情もあり、管理組合の理事会は紛糾し、意見がまとまらないケースも多い。深山さんの感覚では、理事会がきちんと機能しているタワマンは「全体の2割程度」という。

「集合住宅の管理運営の鍵は、強いリーダーシップを持つ人です。まとめ役を楽しいと思い、他の住人とのコミュニケーションを厭わない人がいると、話が前に進みます。」強いリーダーがいて、理事会が機能しているタワマンは「ビンテージ・マンションを目指すために日頃から住まいに愛着を持ち、修繕も積極的に行おう」という意識が生まれるという。しかし、残る8割は、理事会が機能せず、40年、50年先のタワマンでは、現在のニュータウンが抱える課題以上の悲惨な状況が起きると予想される。

規模が大きく、都心という土地柄、タワマンが「スラム化」したときの影響は大きい。かつては時代の象徴であったニュータウンの規模を、今ではタワーマンション数棟でのみ込んでしまえる。
この現状に私は戦いてしまう。高層とはいえ狭い敷地に、1千人以上が暮らすのは、不自然に思えるからだ。人口爆発が止まらず、国民の住む場所がないという現状であるならば、まだ分かる。しかし実際の日本は、人口減少の一途をたどっている。

大地震の可能性を考えると、東京一極集中の解消は国家としての重要な課題だ。なのに、都内には次々とタワマンが建設され、飛ぶように売れる。江東区や中央区は、人口減少の解消策として、住宅用建物の容積率を大幅に緩和して超高層マンションの建設を可能にした。それによってタワマンが林立するようになった。

つまり、都内のタワマンブームは行政主導だったとも言える。自治体が人口減を解消するためにタワマンを“誘致”する。そこだけは人口増となる一方で、他の多くの自治体が人口減となる。これは、地域のエゴではないだろうか。よくよく考えてみれば、郊外で自然に囲まれ、広い一戸建てに住む方が、はるかに快適なのに。

ニュータウンが出来た当時、郊外の人口が増えて都市が空洞化し、「ドーナツ化現象」と呼ばれた。都市では昼間と夜間の人口格差も広がった。タワマンが林立するようになって、ドーナツ化は解消されたものの、都心部に全てが集中し、それと反比例して、郊外が過疎化する懸念が生まれた。人口が減り続ける日本にあってそれと相反するタワマン建設を、このまま本当に進めてよいのだろうか。

新型コロナの感染予防には、密閉、 密集、密接の「三密」を避けることが 有効とされている。 タワマンのエレベー ター内は、皮肉にもこの「三密」を 作り出す格好の場となっている。
良くも悪くも一蓮托生‐果たしてそれは理想の住まいなのだろうか。
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